『衛星ボウイは空を見る』4

 少し恥ずかしそうに星食いが言うと、爆弾タイガーの全身の毛が逆立った。隣に座る衛星ボウイは爆弾タイガーの変化に少し驚いたあと、星食いを興味深そうに見詰めている。
「星食いという存在については勉強したことがあります。会ったことはありませんが、知識として知っている星食いとあなたはずいぶん違うように見えます」
「わーっ!おいらはやっぱり死んじゃったんだー!ここは天国なんだ!」
「そうねぇ。星食いを扱った文献は古いものしかないから、違って見えるのも当たり前かもしれないわね」
「あー、ここが天国だったら、見たことのないおいらのご先祖様もいるのかな。おいら死んじゃったのか…」
「確かに、星食いの情報は少ない上に一番新しいものでも200年くらい前のものだったと思う」
「イヤだー!おいらはまだまだ死にたくない!」
「さ、トラさん、おいしいケーキもあるから是非召し上がってね」
 衛星ボウイと星食いが話している間ずっとわめいていた爆弾タイガーは、出されたケーキを見て目を輝かせた。そして、フォークを使って丁寧に食べ始めると、逆立っていた毛もおとなしくなり、顔いっぱいに幸せそうな微笑みを浮かべていた。

「星食いは星を食べて宇宙を荒らす。それくらいしか知られていないと思うわ。
 でも、私は美味しくないから、自然に生まれた星を食べることはないわ。他の星食いと会うことはほとんどないけれど、多くの星食いが自分で作るか、そうでなくとも食べる量を制限しているはずよぉ」

 星食いが言葉を切って紅茶を一口含み衛星ボウイの様子を見ると、ヘルメットの星から照射されたキーボードに向かって今聞いた話を熱心に打ち込んでいる。
「ふふふ、いい機会だからしっかり記録しておいてね。
 自分で作った星を食べていれば、宇宙に与える影響も少なくて済むけど、私たちは存在しているだけで星を食べしまうことがあるの。だから、食事中に飛び込んで来たポッドには驚いたわ」
「じゃあ、あの星はお姉さんが作ったの?」
「ふふふ、美味しそうだったでしょ?
ポッドが頑丈で良かったわね」
あくまでもにこやかに言う星食いに、ケーキを食べ終えて放心していた爆弾タイガーが飛び跳ねた。

「そうだよ!おいらたちが生きているのは分かったけど、ポッドが壊れちゃってたら帰る時間に間に合わないよ!」
爆弾タイガーの言葉に、衛星ボウイもハッとして時計を見た。星食いに飲まれた時よりも、1時間ほど針は進んでしまっている。
「お姉さん、僕たちのポッドはどこですか? まだお話をしたいのですが、そろそろ帰らないといけないんです」
 申し訳なさそうに衛星ボウイが言うと、星食いは奥の扉を指さした。そこには落ち着いた色の木製のドアがあり、装飾を施された文字で”外”と書かれていた。
「残念だけど、仕方ないわねぇ。ポッドは外の桟橋に置いてあるわ」
 星食いが言い終えるのを待たずに爆弾タイガーはドアから飛び出していく。衛星ボウイは名残惜しそうに紅茶を飲んで、星食いに手を差し出した。
「この星の名前は何というのですか?」
「ここはアテネムーンと呼んでいるわ。私が今まで見た中で一番素敵な星を、私が住めるようにしたものなの」
 衛星ボウイの差し出した手を取らずに、星食いは答える。
「最後に、あなたの名前を教えてもらえませんか?」
 衛星ボウイが手を出したまま尋ねると、星食いは少し寂しそうにため息を吐いて、答えた。

「私には名前を呼んでくれるような相手がいないの。だから、私は今まで名前を持ったことがない」
「そんなっ」
「だから、今度会う時にあなたが付けてくれないかしら。
 あなたとなら、また会えそうな気がするから」
 ふんわりと微笑んで衛星ボウイの手をしっかりと握ると、まだ名前のない星食いは手をつないだままドアへと向かう。

「もう、なにやってるのさ!大変なんだよ、やっぱりポッドは故障しちゃってるんだ!」
 外では爆弾タイガーがプンプンとポッドの周りを飛び回っている。桟橋に着けられているポッドの見た目は出発時と変わっていないように見えるが、星食いに飲み込まれた時の過負荷でセンサー系が壊れてしまったようだ。
「だから、おいら考えたんだ。おいらはこのポッドを修理してから帰る。
 衛星ボウイ、君はサテライトドロップスで先に帰るんだ!」
「治すのにどれくらいかかりそう?」
「一日かければ、何とかなると思う。だから、君が先に帰って仕事を済ませたら、おいらがいないことをうまく誤魔化してほしいんだよ」
 胸を張って指を突きつける爆弾タイガーの姿に、衛星ボウイは今まで感じたことのない胸を締め付けられるような気持ちになった。
「分かったよ、君がそこまで言うのなら、僕は先に帰る。でも、帰ったらすぐにおじいさんに連絡を取って迎えに来るから、待っていてほしいんだ」
 爆弾タイガーが黙って親指を立てると、衛星ボウイも親指を立てて見せた。

「今度会う時には、素敵な名前を持ってくるから、彼をよろしくお願いします」
「任せて!期待して、待っているわねぇ」
 星食いへの挨拶も済ませた衛星ボウイはホームポイントへ帰るため、装備の確認と準備体操を行う。乗り物を使わずに宇宙を航るためには、どれほど小さな問題もあってはならない。

「サテライトドロップス、起動!
 アテネムーンからホームポイントへ!」
 ぐぐぐっと足に力を貯めてから、衛星ボウイは宇宙へと力強く飛び立った。
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